「俺は、脳内のカクテルをシェイクする。右脳の野生、左脳の論理、そして魂の核。この『マインド・ブレンド』の比率を間違えれば、現現実ただの毒に変わる。今日は、少し苦い配合になりそうだ。」

PHASE 01(事象)
リハビリ生活、二十数年。東日本の冷えた空気の中、俺はいくつもの医療現場を渡り歩いてきた。
かつて、俺の脳内には「白衣の天使」という甘ったるい幻影がこびりついていた。アニメの主人公がヒロインに抱くような、あるいは新宿のホストが客に見せるような、作り物の夢。
だが、現実にそこに立っていたのは、天使などではない。髪を振り乱し、苛立ちを隠そうともしない、現場という名の戦場で戦う職能者たちだ。
そこに「女性」としての潤いを求めるのは、過酷な現場を知らぬ者の傲慢かもしれない。彼女たちは決して悪人ではない。ただ、優しさや色気といった幻想を剥ぎ取った先に残る、剥き出しの「生」の有り様が、そこにあるだけなのだ。
PHASE 02(観測)
俺は気づく。不快感の正体は、相手の態度ではない。俺自身の脳が引き起こした「選択バイアス」という名のバグだ。
俺は無意識に「医療従事者=献身的で清らか」という、統計的にあり得ない極端なサンプルを「正解」として設定していた。その歪んだ基準に照らし合わせるから、目の前の現実が「エラー」に見える。
さらに「交絡バイアス」も働いていた。「医療という聖職」という看板に惑わされ、その背後にある「人手不足」「疲弊」「感情労働の限界」という真の要因(交絡因子)を見落としていた。どす黒いほどの疲労を、勝手にピュアな色で塗り潰していたのは、他ならぬ俺の先入観だった。
PHASE 03(統合)
かつて、あるスピリチュアルの先導者はこれを「色眼鏡」と呼び、ジョセフ・マーフィーは「メンタルブロック」と名付けた。呼び名はどうでもいい。要は、俺たちの認識というフィルターが、いかに現実を歪めているかだ。
ここで俺は、独自の思考法である「マインド・ブレンド」を試みる。これは、荒ぶる右脳の感覚と、冷徹な左脳の論理、そして魂の核にある直感を掛け合わせ、事象の真実を抽出する作業だ。
【マインド・ブレンド(脳内統合)】
左脳(Logic):60%
(「選択バイアス」の特定。期待値というエラーコードをデバッグし、数値をゼロに戻す作業。)
右脳(Emotion/Sensation):30%
(消毒液の匂い、現場の緊迫感。それを「不快」や「渇き」として検知する生存本能。)
核(Spirit/Core):10%
(善悪や性別を超越した「現象」として、ただそこにある命の有り様を観る。)
PHASE 04(帰結)
「ありのまま」を観る。それは、相手に優しさを求めるのをやめることだ。
相手が「鬼」に見えるなら、それは俺の脳が「仏」を勝手に期待したからに過ぎない。
機械的に、淡々と。流れるように処理される医療のシステムの中に、俺という個体を馴染ませていく。先入観という名の分厚いフィルターを一枚ずつ剥ぎ取った先に、ようやく、感情に左右されない本当の「自由」が顔を出す。
俺はこれからも、あの乾いた蛍光灯の下へ向かう。
幻想を脱ぎ捨て、ただ、ありのままの「現実」と対峙するために。
後書き: 「マインド・ブレンドの比率が変われば、世界の色は一瞬で塗り変わる。あなたの今日の脳内配合、左脳に寄りすぎて心が枯れてはいませんか?」