痛む。
歯が、痛むのだ。
だが、男は座る。座って、数字を、時間を、貪ろうとする。
それは自傷行為に近い、聖孝(セイコウ)という名のドMの儀式であった。
PHASE 01(事象)
じわじわと、顎の奥で何かが脈打っている。
ドクン、ドクン、と。
現在の統計学習、わずか3問。その数式が脳に入り込んだ瞬間、現場運用者たる男の肉体に異変が起きた。
下腹部が猛烈に自己主張を始める。トイレだ。それと同時に、胃の腑が奇妙にねじれる。
だが、男の視線は、PCの画面に張り付いたカレンダー、その「6月30日」というデジタルな数字に吸い寄せられていた。
PHASE 02(観測)
「忘れる。今やらねば、俺はすべてを忘却の彼方に置き去りにする――!」
男のセルフ・トークは、すでに常人のそれではない。
歯痛。尿意。腹痛。それらすべての肉体的反乱を、男は「管理のほうが大事だッ!」という狂った左脳の絶叫でねじ伏せた。
カレンダーのマス目を埋める男の指先は、まるで古武術の極意を体現するかのように、滑稽に、かつ超高速で動く。
やりたいから、やる。
そこには1億円の資産構築を目指すオーナー経営者の冷徹さなど微塵もない。あるのは、ただ「気になって仕方がない」という、脳のバグがもたらした純粋なクレイジーだけだ。
PHASE 03(統合)
ここで、男の脳内はブレンドされる。ドロドロに、しかし完璧な配合比率で。
■マインド・ブレンド(脳内統合)配合比率
右脳(黒ギャル風の直感):30%:「ぶっちゃけ半期だし、カレンダーやんないと詰むっしょ?」という、ノリと気の流れ。
左脳(サイコパスな言い訳):20%:「統計は3問解いた。よって俺の義務は果たされた」という、己を欺くための論理。
核(中学生の頃から飼い慣らした本物の狂気):50%:歯が痛くてのたうち回り、横たわりながらも「あと2問……いける」と、濁った目で起き上がろうとする、救いようのない執着。
PHASE 04(帰結)
男は横たわった。
痛みが引いていく。いや、引いたのではない。脳が次の標的(残り2問)を見つけ、エンドルフィンを大量分泌させて痛みを強制麻痺させたのだ。
この男、やはり狂っている。自分の身体を「負荷トレーニング」の実験台として消費し尽くすつもりだ。
【後書き】:便所へ走り、予定を刻み、歯痛の波をサーフィンする。
これを「管理」と呼ぶのなら、この世のすべてのマネジメントは、ただの変態の宴だ。